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ヴェストリ広場。普段は人気の無いこの場所は、噂を聞き付けた生徒で溢れ返っていた。 「諸君!決闘だ!」 ギーシュが高々と薔薇の造花を掲げそう宣言すると、周りから歓声が上がった。 (どうやら完全に娯楽扱いらしいな。本人は気付いてるか知らんが。) ポルナレフはだんだん自分が何やっているのか分からなくなってきた。 「逃げずによく来たね。一応褒めてあげるよ」 キザったらしく髪を掻き揚げ薔薇の造花をポルナレフに向ける。 「…」 ポルナレフは無言だった。 ギーシュは何か言おうとしたが、ポルナレフが右手に持っている物が目に入った。 「なんだい、その『亀』は?」 「…俺の相棒だ。」 「…亀…ああ、君は『ゼロ』の使い魔だったか! 道理でどこかで見た気がしたよ!」 やっぱり貴族という連中は亀が好きらしい、というか亀以下なのか、俺は? ポルナレフはそう思った。 「どうせ貴様は魔法を使うんだろ?素手じゃ不利だからな…」 「ふん!まあ構いやしないだろう!大体亀ごときに何が出来るッ!ナイフでも持ってきた方が良かったんじゃないか!?」 ギーシュは素早く薔薇の造花を振った その動作に伴いはらりと花弁が舞い、それが地面に落ちるや否や等身大の人形へと変化した。 「おっと言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』ッ!青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するッ!!」 ワルキューレが女騎士の恰好をしているのを見て、やっぱりただの女好きらしいと判断するポルナレフ。 「青銅…か」 チャリオッツだったら一秒もかけずに十六等分してるだろうな、とも考えたが、チャリオッツのいない今、そんなことを考えても仕方がないので雑念を捨てた。 「まずは小手調べだッ!」 「来い、小僧!」 ギーシュの台詞と共に一体のワルキューレが突進し、拳を繰り出す! しかしポルナレフは繰り出される直前にズボンから厨房から(無断で)借りてきたテーブルクロスを取り出し、ワルキューレと自分の前にバサッ!と広げた。 「目くらましかッ!」 そのテーブルクロスにワルキューレの拳が炸裂する! が、手応えが無かった。 それどころかポルナレフの姿自体が無かった。 いきなりのことに慌てるギーシュ。 「ど、何処に隠れたッ!?」 返事が無い。 地面に落ちたテーブルクロスをめくってみてもポルナレフの姿は無い。 いるのは亀のみ… その時ギーシュは閃いた。 あの平民は亀を相棒と呼んでいた。 →とすれば亀を人質(?)にすれば問題は無いッ! …明らかに汚い手だがギーシュはそれを実行に移した。 ギーシュはワルキューレに亀を捕まえさせると自分の手元にまで持って来させ、受け取ると高らかに叫んだ。 「出てこい平民ッ!さもなければお前の亀を殺すぞ!」 …ただのゲス野郎にしか見えない。 そして何処からともなくポルナレフの声がした。 「やれやれ、しょうがあるまい…大切な相棒兼寝床だからな。 床で寝る真似など、俺には出来ん。」 ギーシュはニヤリと笑い、「かかったなダボがぁ~」と思った。 だが、そのせいで気付かなかった。その声が『何処から』響いてきたのかを。 ドスッ! いきなりの事にギーシュは手の甲に感じた衝撃が何かわからなかった。 見てみると、亀の甲羅からから伸びた腕が、 ギーシュの右腕をナイフで深々と刺していた。 後日彼が語るにはー 「あ、ありのままあの時起こったことを話すよ… 『奴の前で亀を人質にとったと思ったらいつの間にかナイフが刺さっていた』 何を言っているのか分からないだろうが僕にも分からなかった。 先住魔法だとか虚無だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない。 もっと訳の分からないものの片鱗を味わったよ…」 「ギャァァァアァァ!」 ギーシュは思わず亀から手を放し左手で傷を押さえた。 しかし亀から出た腕は間髪入れずギーシュの顔面を殴り飛ばす! ギーシュの体は空を舞い、地面に仰向けに叩き付けられた。 「あ、ぐ…」 ギーシュの意識が一瞬飛んだ直後、今度は頭を踏み付けられた。 ギャラリーにはいつの間にかポルナレフが現れ、ギーシュの頭を片足で踏み付けた、としか見えなかった。 ポルナレフの左手には血で濡れたナイフが握られていた。 (ポルナレフ以外誰も知らなかったが、それはナランチャ・ギルガの遺品である。) 「…小僧、何で貴様がここまでズタボロになっているか分かるか?」 ポルナレフは静かに尋ねた。 ギーシュはそこに何故か怒りがあるのに気付いた。 「そ、それは…お前が怪しげな魔法を…」 ポルナレフの威圧感に押さえ付けられつつも、ギーシュは一応返答した。 バキィッ! ポルナレフはギーシュの頭を躊躇せず蹴りとばした。 「このドグサレがッ! 貴様が負けた理由、それは相手には無いッ! それは貴様が相手を見くびったからだッ!」 ポルナレフはギーシュを初めて見てから、ずっとかつての自分を感じていた。 そして亀の中から戦い方をみて確信した。 亀を人質にとったりするのはただのゲス野郎だが、それを除いたとしても、 ギーシュのある程度実力はあるが、自信過剰気味で油断している姿は まさにアヴドゥルがホルホースにやられかけた時より以前の自分そのものだった。 それだけに、厳しくしようとしてしまう。 「貴様は見くびって、小手調べだと言ったろう? それが駄目なのだッ!勝ちたければッ!」 ポルナレフは一呼吸おいてから静かな口調で言った。 「自分の持てる全力で来い。それが闘いへの、相手への、騎士の誇りへの礼儀だ。」 To Be Continued...
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ギーシュの奇妙な決闘 第十話 『Shall We Dance?』 ――深夜のトリスティン学院に、平民の侵入者が暴れ、生徒を負傷させる! この一報は夜明けを待たずオスマン学院長に知らされ、300年生きた彼をして驚愕させた。 それもその筈。襲撃してきた『黄の節制(イエローテンバランス)』の『ラバーソール』という男の名前に、二つ程心当たりがあったのである。 一つは、巷に流れる噂として。 『ラバーソール』の名前は、メイジ殺しで有名な傭兵として、トリスティン全土に轟いていており、多少なりとも軍務に携わるオスマンの耳にも届いていたのだ。 もう一つは……『黄の節制』というスタンドの名前だ。オスマンはその名前を聞いた瞬間、承太郎から聞かされた話の中に、そんな名前の敵がいた事を思い出していた。 オールド・オスマン……興味の無い事柄については痴呆の老人並に物覚えが悪いものの、興味があったり重要だったりする事柄だと、異常なほどに記憶力が冴え渡るジジイ。故に、承太郎の話に出てきた敵の話は、全部覚えていたりする。 承太郎をして、『恐ろしい奴だ』と言わしめ、彼を追い詰めた事もある猛者……それを、学院に通う生徒たちが撃退してしまったというのである。 オスマンは襲撃者の存在に気付けなかった己を恥じると共に、それを撃退してのけた生徒たちに対して、驚嘆の意を示した。 関係各所に対して連絡を行った後、その生徒たちを呼び出して、可能な限り賞賛の言葉を贈り、その労に報いることを伝えようとした。 ギーシュは負傷の度合いが酷かった為に治療がまだ終わっておらず、功労者を一人欠く形となったが……兎も角、学院長室に4人の若い功労者たちが集まる事になったのである。 「さて、君達は良くあの男を捕まえてくれた……あれは、『メイジ殺し』で知られる凶悪な男でなぁ」 『……はぁ』 「奴は今、『星屑騎士団』の方々に引き渡した。一件落着、っちゅー奴じゃ。逃げたというサイレントを使ったメイジについても、追っ手がかかる予定じゃ」 『…………はぁ』 「君達の、『シュヴァリエ』への爵位申請を宮廷に出しておいたから、追って沙汰があるじゃろうて……その年でシュヴァリエっちゅーのは、大したもんじゃぞ! この場にいないグラモンの分も勿論申請済みじゃ!」 『………………はぁ』 「ミス・タバサは既に『シュヴァリエ』の爵位を持っておるから、精霊勲章の授与を申請しておいた。残念ながら、才人君に関しては、貴族ではないから何も出せんがな」 『……………………はぁ』 「ま、まぁ、そういうわけじゃ。 あの男の能力……『傍らに立つ使い魔』ついては、くれぐれも他言無用にな」 『…………………………はぁ』 んがしかし。 オスマンが放った様々な褒め言葉や、タバサの爵位、才人に対する爵位不授与等……反応があるべき話の内容に対して、皆清々しいほどに無反応。 というか、呼び出された四人共、眼が虚ろでやばい。四人を連れてきたコルベールは、一歩引いた位置でやれやれとばかりに肩を竦めている。 「あ、あの……そこまで無反応だと、ワシも怖いんじゃけど……どったの??」 「……むいんだ」 「ほへ?」 「眠いんだよ」 がちゃり、と才人は実かにあるデルフリンガーを手にし、殺気剥き出しの眼でぎろりとオスマンを睨みつけ、 「こっちは夜通し戦ってたっていうのに……コッパゲ先生に報告して、夜明けになって、ギーシュの治療が長引いて、治療も終えて、ジジイの長話聞かされて、ようやく眠れると思ったら呼び出されて……」 「お、落ち着きたまえ才人君……色々と支離滅裂じゃぞ!」 今にも斬りかかって来そうなほどに殺伐とした才人の様子に、オスマンはうろたえて視線をそらす。どうでもいいけど、猛獣を前にした時って、視線逸らしたらアウトらしいね。 逸らした先にいた者達も……成る程、才人が断片的に出した言葉の通り、とても眠そうだった。 タバサとキュルケはなんというか、意識があるかどうかも疑わしいし、ルイズに至ってはその場でこっくりこっくりと船を漕いでいる始末。 「て、徹夜ッて事は……一睡もしとらんのか? マジで」 「おう。だから早く寝させてくれよコンチクショウ」 「…………」 まぁ、そういう理由があるのならば、無理に話を進めるわけにもいかない。 この状態では、話したところで覚えられる可能性は低いだろうし、改めて後日伝えた方が良かったかもしれない。 とりあえず、最後に一つだけ伝えてから、解散させる事にした。 「今日の夜はフリッグの舞踏会じゃから、これで終わりとしようか」 『………………………………はぁ』 「今日の主役は君達じゃからな。遅れんようにしてくれ」 『スタンド』の事を知らない人間たちには、『五人が学院に侵入し、フーケの真似をして宝物庫に押し入ろうとした『メイジ殺し』の傭兵を撃退した』という、スタンドに触れない、微妙に捏造した情報を流してある。 『ラバーソール』というよう兵の評判も、そのまま伝えておいた。 ゾンビのような足取りで部屋を出る四人と、医務室で唸っているであろうギーシュは、周りの人間にから見ても、文句なしにシュヴァリエに値する手柄を立てたように見えるわけだ。 「流石に、真実そのままを漏らすわけにもいかんからのぉー」 ラバーソールに無実の罪をでっち上げてしまった事に対する呟きに、部屋に残ったコルベールはこくりと頷いて、 「ええ……まさか、もうアカデミーが動き出しているとは」 「最近のアカデミーは、酷いもんじゃな」 何が、とは言わなかった。言われずとも、コルベールには分かっていた。 元々王立魔法研究所という部署は、以前から芳しい噂を聞くようなところではなかったが、昔はまだマシだった。 論理的な点で言うのならば、あまり変わっていないし、『人一人解剖しかねない』『珍しい使い魔見つけたら、とりあえず解剖』という実情は変わっていないのだが。 それでも、昔のアカデミーはまだ統率が取れていたのだ。王室から命令があれば人体実験は慎んだし、使い魔の主からの要請があれば、回収した珍しい使い魔を返却するぐらいの度量はあったのに。 「私が……」 「?」 「私が、実験小隊を率いていたときは、少なくともメイジの誘拐などという真似をしでかすような部署ではありませんでした」 血を吐くような感情でもってもたらされた言葉には、否応を言わせぬ重みがあった。 平民でなければいいという意味で放たれた言葉ではない。コルベールが口にし、オスマンが頭を痛めるのは、アカデミーの動きが完全に暴走状態にあるという事だった。 人体実験は王家の禁止令にも関わらず隠れてこそこそ続けて、使い魔を回収すればどんな苦情が来ようと二度と返却しない。 正直、今のアカデミーの連中だったら、『虚無の秘密を探る』なんて理由で、王室の人間を解剖しても不思議ではない。いや、驚いて怒りはするだろうが、意外には思わないだろう。 「アカデミーにおる者の話では……彼らは今真っ二つに割れておるそうじゃよ。 『良識派』と強行……いや、『暴走派』とでも言うべきか。厄介なのは、表向きは全員が良識派という事じゃな」 「暴走派が全員、己の行為を隠していると?」 「うむ」 「それは……罪を自覚してでしょうか」 「違うの。残念ながら」 人の善なる部分を信じたがるコルベールの言葉に、オスマンは悲しげに首を左右に振るった。 「暴走派の連中は……単純に『研究』が出来なくなるから、己の存在を秘匿しておるに過ぎん。自分達の行いが『罪』であると知ってはおるし、『罰』の存在も知っておろう。 じゃが、それは知識だけで感情が伴わん。奴らに罪悪感など欠片もあるまい」 「…………そうでしょうな」 「すまんな。君には酷な言い方だったかもしれん」 「いえ、薄々わかってはいたのです……落ち込んでもいられませんしね」 ラバーソールに行った簡単な尋問の結果得られた、ほんの僅かな情報。 『博士(プロフェッサー)』と呼ばれるメイジの存在。 手がかりといえば、偽名一つだけという状況だが、それでも動かないわけには行かない。 コレだけでアカデミーを槍玉に挙げられないので、必然的に自衛を中心として対策を練らねばならない。 「即急に、警備を強化しましょう。フーケの事を理由に挙げれば、増援の許可も下ります」 「うむ……まぁ、全てはフーケの事が終わってからじゃがな」 「ズォースイ君はいかがいたします?」 「帰って来次第、又調べ物をしてもらう事になりそうじゃな」 今、すべき事を。今、出来る事を。 不利な現状に甘えず、オスマンとコルベールはこれからの事を話し合い、生徒を助け守るため、死んだ仲間に報いるために頭脳を回転させた。 さて。オスマンの話に出てきたイカシュミ……リゾットは何をしてたかと言うと…… 「さぁー! 祝勝祝いよ! 呑んだ呑んだぁー!」 「祝勝祝いってよぉー……祝勝ってのはよくわかる、スッゲーよく分かる……勝利を祝ってんだからな……けど、何でその上に又祝いがつくんだぁー!?」 「って、ちょ、ギアッチョ……落ち着……ギャー!?」 「祝うのを祝ってどうすんだええ!? 舐めてんのか! この言葉俺を舐めてんのかぁー!」 「ふ、フーケたんちょっと飲みすぎなんじゃあ」 「硬い事言わずに呑め呑めー! 私はあんたらと違って死ぬまで呑めなかったんだから大目にみなさいっての!」 「たっく、しょうがねぇなぁぁぁぁぁぁ……ほれ、そのサラミ俺が貰うぜ」 「あ、兄貴~! 俺は、俺はね……」 「ペッシ……おめーはその箪笥が俺に見えるのか!?」 「……お前ら……頼むから少しは自重しろ」 大仕事を終えて宴会おっぱじめた愉快な仲間達を前に、頭を抱えていた。 なんというか、阿鼻叫喚という四字熟語がぴったりの環境である。 リゾットはオスマンからフーケの調査を依頼された時、これは好都合だと思い快諾した。 オスマンに言われなければ、彼自身が進言して名ばかりのフーケ調査に乗り出す算段だったのだ。 元傭兵のネットワークに、こちらが言い出すまでも無く利用価値を見出す辺り、あの老人は矢張り只者ではない。 その後は、フーケと同じく適当に死体をでっち上げ、逃走する手はず『だった』。 ――なのに。 合流地点のアジトについたら、やたら得意絶頂になって酒盛りしてる仲間達がいたわけで。 「あ、りぞっと~! おかえりー!」 「……フーケ、お前はとりあえず酒樽から直接飲むのはやめろ。 ギアッチョ、イルーゾォを解凍してやれ。プロシュート、ペッシの酒癖はいつもの事だろう」 ようやく自分の存在に気付いた紅一点の暢気な声に、リゾットは疲れた様子を隠そうともせずに各々に注意を向けて、腰を下ろした。 隣のホルマジオがにやりと笑って、 「よぉー! お疲れさん」 「ホルマジオ……お前も、この惨状を止めてくれ頼むから……」 「そうは言ってもなぁー、打ち上げは必要だろ?」 「……俺が言いたいのは、節度という意味でだな……」 「しょぉーがねーなー。我らがリーダーは……ほれ、お前も呑め呑め」 ホルマジオに進められて、渋々リゾットはグラスでワインを受けて、飲み干す。 芳醇な味わいが口内を駆け抜けて……そのあまりの旨さに、眉をひそめた。 高級すぎる。今の自分たちが買っていいものではない。 むしろ、そんな贅沢するくらいなら、少しでも多く仕送りを増やすべきだろう。 「おい、このワインは……」 「だじょうーぶよ! あたしが前に貴族からぎってきたやつだからぁ~!」 けらけら笑うフーケに、リゾットは深い深いため息をついた。こうなったらもう何を言っても無駄なのである。 ハイになった酔っ払いに敵う者はいないのだ。得にフーケの場合はそれが顕著だ。 この場で一同全員で作戦会議をする事をあきらめ、リゾットは惨状の中でも信頼できる二人に絞って声をかけた。 「ホルマジオ、プロシュート……」 「……しょーがねぇーなぁぁぁぁぁ……何があった」 「――どうした、リゾット」 ホルマジオはやれやれと肩をすくめながら、プロシュートは気持ちを切り替え修羅場の表情でリーダーに問い返す。 「ああ。一寸な……イルーゾォが言っていた話は、本当か? 替え玉が用意できなくなったという話は……」 「ああ、残念ながらな」 「まぁ、不可抗力って奴よ」 あくまで率直に自分達の不手際を認めるプロシュートとは対照的に、ホルマジオはにっかり笑って、 「ギアッチョの奴が請け負った仕事に不手際があってなぁー……いや、俺達のじゃなくて依頼人のほうにな。 敵の護衛に、スクウェアクラスのメイジがいたのを見落としてやがった。悪い事に『偏在』使いの風のメイジでな。閃光のなんとかつったか」 「それで、標的を生かして捕らえる余裕が無くなったらしい……それがどうした? 違約金なら多目にせしめたぞ」 「……しばらく教師を続けなきゃならなくなったと思ってな」 リゾットの口にした言葉には、二人だけではなく周りで騒いでいた連中までもが我に返って目をむいた……完全に入ってしまったペッシと、気絶したイルーゾォは帰ってこなかったが。 「な、どういう事だリゾット!」 「死体無しでは、怪しまれるからな」 「おいおいおいおいおいおい……適当にでっち上げればいいだろ」 「……無辜の人間を、か? 確実に怪しまれるぞ……オールド・オスマンは特にな」 自分と同じ格好の人間が行方不明になり、同時期に自分がぐちゃぐちゃになって死んだとなれば……一寸頭のいい人間なら、関連性を視野に入れるはずだ。事が大逆犯の逮捕というだけに、騎士団は些細な事件など見逃すかもしれないが、オスマンが見逃すと考えるのは楽観的に過ぎるというものだ。 『死体』の調達はあくまで『暗殺』という、土くれとは無関係に見える現象によって調達せねばならない。 そうでなければ、確実にばれる。 かといって、死体無しでいなくなっては…… 「余程遠い場所から浚えば兎も角……今からでは時間もない」 「……俺達も丸くなったもんだな」 プロシュートが、嘆息して忌々しげに吐き捨てる。 かつて、『飛行機が落ちるよりは被害が少なくてすむ』等と言いながら列車丸ごと巻き込んで殺戮しようとした男が、無辜の人間一人殺すのに躊躇っている。その現実が、この生粋のギャングには苛立たしいらしい。 「それとは違うだろう……けど、そこまでして残る必要があるのか?」 「今の状態で『死ぬ』デメリットが大きすぎるからな。星屑騎士団の事も気になる。 お前達は先にゲルマニアへ脱出していてくれ。俺も、機会を見て『死』んで後を追う。村で落ち合おう……DISCの扱いについては、フーケに任せる」 「あいよ。精々高く売り飛ばしてやるよ……国が買えるぐらいにね」 「やれやれ、大仕事を前にリーダー不在か」 意気揚々と笑うフーケをよそに、これからの心労に思いをはせ、メローネは思いの限り脱力した。 何せ、これから行くゲルマニアでは、『皇帝暗殺』というとてつもない大仕事が待ち構えているのだ……それをリーダー不在でやる事がどんなに困難な仕事となるか、考えるだけで欝だ。 「連絡すら取れねえんだろ? やれやれ、本当に面倒だぜ」 「あそこは国力はあるが、スタンド使いの数は少ない……お前達ならやれるだろう」 理由は分からないが、ゲルマニアという国には自分達と同じように召喚されるスタンド使いが極端に少ないのだ。 余談だが、リゾットたちが召還されたのはフーケの故郷であるアルビオン、承太郎達、星屑騎士団のスタンド使いはトリスティン、ラバーソールはガリア王国の出身(?)である。 確かに、この国やガリア王国の王様を殺すよりは難易度が下がるだろうが、困難な事に変わりは無い。スタンドと違い、メイジの使う魔法は非常に凡用性が高く、百戦錬磨の彼らでも苦戦させられる場面が多々あるのだ。 間違いなく、この世界に着てから最難関であろう仕事を前に、我らが兄貴は襟元を正し…… 「兄貴~! きいてるんスカ兄貴ぃ~~~~!」 シリアスな雰囲気をぶち壊す弟分に、『よし。後でぶちのめす』と決意するのだった。 (――ふむ) 『博士』は、視界の先で繰り広げられている会話に、興味心身で聞き入っていた。 並んでいるのは、騎士団の人間と、王立魔法研究所の所長であり、会話の内容は…… 「だから、我々にそんな事を聞かれても困るといっているんだ! 魔法学院に人が忍び込んで、どうして我々が調べられなきゃならないんだ!?」 「しかし、現にあなた方は先日も学院の使い魔を無断で……」 (流石に、動きが早いな……オールド・オスマン) 襲撃から一晩しか立っていないというのに、既に騎士団を動かすオスマンの器量に感嘆させられると共に、自分の今現在の上司とどうしても比べてしまう。 「そんな事は知らん! ええい! 研究の邪魔だ!」 縄張り意識むき出しで怒鳴り散らし、王家の命で来ている騎士団の連中を叩き出すその姿は、どう考えてもオスマンよりも遥かに格下である判断せざるをえない。 王立魔法研究所の歴史上異例の若さで所長に就任し、数々の画期的な発見を遂げている、無能とは程遠い人物ではあるのだが……精神的に幼稚な部分が目立ち、『天才と何とかは紙一重』を地で行くような人物だった。 あの幼稚さは、騎士団の追及から自分たち研究員を遠ざけてくれるし、所長の才能は人格上の欠点を補って余りある貴重なものだと考えていたから、『博士』は軽蔑するなどもってのほか、尊敬の念すら抱いていたが。 (この人は、『先』には至れないだろうな) 漠然とした思いと共に、視線を手元の擂鉢に戻す。仲に山盛りにされているのは、それだけで立派な庭付きの一戸建てが立つほど値の張る代物で、秘薬の材料だ。砕きすぎると薬効が薄れるため、慎重に扱わなければならないものだった。 それらをプチプチと潰しながら、ラバーソールによってえられた成果に思いをはせた。 (正直、学院のメイジが目覚めたと聞いて……サンプル程度にしか期待してなかったんだがな。 全く、あれほどまでの『力』を見せてくれるとは) 襲撃の失敗によって、学院側は侵入者対策をガチガチに固め、学院に寝泊りする二人を誘拐するチャンスが激減するだろう。 アカデミーにかけられた嫌疑がどうなろうと、それだけは揺るがしようがあるまい。 だが、『博士』にとってはそれらの重要な事態も些細な事に過ぎない。彼は意外と突き抜けたポジティブさの持ち主だった。 (絶大なる収穫だ……彼らは、『貴重』なサンプルなどではなかった。『極上』のサンプルだった。百の失敗に値する収穫だぞ、これは。 我らに『先』に至る『可能性』を見せてくれた……ふむ、しかしガンダールヴか) ガンダールヴは伝説の使い魔であり、始祖ブリミルの虚無によって召喚された者の筈だ。 という事は、それを召喚したというルイズ・フランソワーズは……虚無の担い手なのだろうか? (ふむ) ありえない話ではないだろう。 彼女の起こした爆発は、『黄の節制』の防御をたやすく突き抜けて、ラバーソールにダメージを与えた。 『この世の極小の粒』を操るとされている虚無ならば、肉の防御くらい簡単に突き抜けるだろう。 (ヴァリエールの三女が虚無の担い手ならば、ふむ、面白い。 是非研究してみたいな……始祖ブリミルの『虚無』は、『先』の力なのか? 取るに足らない系統の一つなのか? それとも……『先の先』? 解剖して、その体の隅々に至るまで解析すれば……虚無の全貌がわかるやも……おや?) 気が付けば、擂鉢の中身は完膚なきまでに砕かれ、粉末状になっていた。 明らかに砕きすぎである……又やってしまったと『博士』は頭を掻いた。 思考に熱中すると周りが見えなくなるのは彼の悪い癖だった。 まぁ、これはこれで使いようはあるが。 水でぬらして発酵させれば、更に高価な秘薬の一種になるのだ。 想定していたものとは違うが、仕方が無い。 (何にせよ今やるべき事はないな……騎士団の眼が厳しいうちは一旦自重するべきか) 砕きすぎた粉末と同じだ。一旦時を置けば高価なものになる。 運命も、今は遠くとも時間を置けば、近づき掴みやすいものとなろう。 それまでは。 (つかの間の安息と、しゃれ込もうか) そして、その安息が明ければ、又激動の時間がやってくるのだ―― フリッグの舞踏会――そこで踊ったカップルは結ばれるという、年頃の青少年が信じやすいかにもな伝説のある、学院の伝統行事である。 オスマンに呼び出されてから今まで爆睡し、完全とはいえないものの前後不覚になるほどの疲労から回復した才人は、貴族達の豪華絢爛な行事を、バルコニーから眺めていた。 実にあきれ返るほどの豪華さである。 料理もさることながら踊ってる連中の格好とか、豪華絢爛な装飾とか……なんともはや、現代日本人の感覚からは想像もつかないような世界である。 真夜中のバルコニーに出ているというのに、室内からの灯りと貴金属による乱反射で真昼のように明るいのである。 呆れながら、才人はワインとチーズをぱくついて……嘆息する。傍らに立てかけられたデルフリンガーが、カタカタとそんな相棒を囃し立てた。 『踊らねぇーのか? 相棒』 「踊ろうにも、相手がいないよ」 この舞踏会に参加が許されているのは学院で学ぶ貴族のみであり、平民の参加は許されていない。 才人は使い魔という事として特例でこの場にいるが……それでも、平民である。 好き好んで使い魔の平民などという特殊極まるカテゴリの人間と踊ろうという、奇特な貴族の婦女子などいるはずが無かった。 案外、キュルケなら誘うかもしれないが……その当人はたくさんの男たちに囲まれて笑っていた。 親友のタバサは踊りになど無関心で料理をむさぼり、その胃袋がブラックホールである事をアピールしていたりする。 二人の親友同士の姿を苦笑して眺めながら、才人は今一番胸の中で膨らんでいる疑問を、隣にいる相棒に投げかけた。 「それにしても、なんだったんだあいつは」 『さあな……見当もつかねーよ』 彼自身アカデミーという場所についてはルイズから聞かされていたが、まさか彼らのほうからこうも率先して誘拐を企ててくるなど、思いもしなかったのである。 「お前、何か知ってるんじゃないのか?」 『名前だけさ。武器屋の軒先で腐ってた時に、耳にしたんだ……まさか、あんな得体の知れない力もってるとは思わなかったぜ。 まぁ、捕まったんだし、そのうち黒幕も割れるだろ』 よくよく考えたら、このインテリジェンスソードについても、同じくらいに謎が多い。こんなに錆付いているというのにスタンドやら肉やらをスパスパ切り裂くし……本人ですら自分が何故あそこまでの威力を発揮するのか、おぼえていないと来た。 「だと、いいんだけどなぁ」 何か嫌な予感が胸中を満たすのを、才人は感じていた。 あの恐ろしい黄色の肉で、本当に終わりなのか……これが、『始まり』に過ぎないのではないかという、最悪の予感が、漆黒のヘドロとなって胸中に張り付いていく。 『ところで、相棒のご主人様はどうしたんだ?』 暗く沈む才人の表情を慮って、デルフリンガーは話題を変えてみる。 この場にいない少女の話題を向けられた才人は眉をひそめて、 「さあ……着替えるって言うんで、部屋追い出されてからはしらね」 『知らないって……』 「ったく、人が疲れてるから手伝ってやろうって思ったのに、なんだよあの態度は……」 グチグチとつぶやいたその時だった。 「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~~~り~~~~!!」 ホールの門に控えた呼び出し衛士が、ルイズの到着を告げたの 「…………」 『……こりゃおでれーた! 馬子にも衣装だな!』 ホールに入って来たルイズの姿に、才人は絶句し、デルフリンガーは驚いたように感嘆詞を漏らした。 ホワイトのパーティドレスに身を包み、バレッタで髪をまとめたルイズの姿は、普段の彼女からは想像もつかないくらいに輝かしい美しさがあり、只でさえ可憐と表現してよかった彼女の魅力を、より一層引き立てていた。 これには四六時中一緒に居た才人もびっくりだ。 ホールに現れたルイズの魅力を見た貴族たちは、彼女がパーティの主役という事もあって、こぞって彼女をダンスに誘う。 今までゼロのルイズと馬鹿にしていたというのに、掌を返したような扱いである……その反応が気に食わないのだろうか? ルイズは彼らの誘いを悉く断り、バルコニーで寛ぐサイトの元へとやってきた。 明らかに悩みを抱えてます、という顔つきの才人に、ルイズは両手を腰に当て、 「楽しんでる……用には見えないわね」 「なぁな……あの、『ラバーソール』の事が気になってしかたがねーんだ」 才人は狙われた本人であるし……デルフリンガーから金で動く傭兵だと聞いてからは、それを雇った者の存在を不気味に感じずにはいられなかった。 「ふぅん……」 「そういうお前はどうなんだよ、踊らないのか?」 「相手がいないのよ」 「一杯誘われてたじゃねえか」 「……お、踊って差し上げても、よろしくてよ?」 「踊ってください、じゃねえのかよ」 自分の相棒と、そのご主人様の、見事にすれ違ったやり取りに、デルフリンガーは声を潜めて笑った。 何という事は無い。ルイズは、掌を返した男共に怒ったのではなく、踊る相手を最初から決めていただけなのだ―― しばらくの沈黙が二人の間に横たわった。 横臥するそれの存在は決して不快ではなく、心地よい程度に加速した鼓動と、酸味のある感情を胸に抱かせる心地の良いものであった。 「もう、今日だけだからね」 その空気を打ち破ったのは、差し出されたルイズの掌。 「私と一曲踊ってくださいませんこと。ジェントルマン」 (今頃は、餓鬼共が舞踏会ではしゃいでるんだろうな……) 酒気で火照った頬に夜風を浴びながら、フーケは学院で行われている舞踏会に思いを馳せる。 アジトの外にある切り株の上で、彼女は二つの月を見上げて呑みなおしていた。 豪華絢爛な食事も、貴族たちとの語らいも、没落貴族にとっては貴重なものであったはずだが、彼女の食指が動く事はない。 今の彼女にとっては、大した価値が無い。 今、このアジトで仲間たちと囲む酒宴のほうが、舞踏会などに参加するよりも余程愉しかった。 安物の干し肉は豪華絢爛な食事よりも彼女の食欲を刺激したし、仲間たちと交わす下卑た冗談はどんな貴族の褒め言葉よりも耳に心地いい。 酒は同じくらいに高級品だが、例えコレが安物でもフーケは仲間達との酒宴を選ぶだろう。 「――ここにいたのか」 月見酒に興じる最中に声をかけられても、フーケの上機嫌は崩れる事がなかった。くるりと背後を振り向いて、 「あら、リゾットじゃない」 「この上月見酒とは……相変わらずのザルだな」 「そりゃあ、子供の頃からあんた達に鍛えられたからね」 何気に仲間達の中で誰よりも酒量のあるフーケは、からからと笑ってみせた。 全く、目の前の連中と着たら、年端も行かない頃の彼女に平然と酒を勧める不良共だったのである。 その彼女が今となっては、彼らを上回る酒量を誇っている。 リゾットはフーケの傍……草の上にどかりと座り込んで、共に月を見上げる。 「何か、思い出していたのか?」 「ん? ああ……学院で舞踏会があるなって、そう思っただけ」 「そうか……」 「あんたは参加しないでよかったの? リゾット」 「豪華な舞踏会より、あいつらと飲むほうが愉しいからな」 自分と全く同じ意見を、この鉄の男が持っている事にフーケは驚くと共に、快活に笑った。 酒も手伝ったのだろうが……こんな、愉しい気分は久しぶりだったのである。 「そう? あんただと貴族のお嬢様に引っ張りだこだと思うけど……」 「どうだろうな……あまり興味が無い。そういうお前はどうなんだ?」 「……何がよ」 「学院に、未練は無いのか?」 死んでまで放棄してきた場所への未練、と言われて、フーケは一瞬考え込んでしまった。 彼女は貴族が嫌いであり、それを鼻にかける連中が反吐が出るほど嫌いだ。 魔法学院などはそういった蛆虫共の巣窟であり、あそこで暮らしている間、彼女は蛆の海を泳いでいるようなおぞましさから開放される事はなかった。 それを知った上でのリゾットの質問は、無礼な行為であり起こって当然と言う類のモノだった筈だが……フーケは何故か、怒る気になれなかった。 リゾットが言いたい事は、大体分かっているのである。 「……オスマンのジジイが、あたしが死んだ事で何か言ってたのかい?」 「ああ。かなり悲しんでいるように見えた」 フーケの脳裏をよぎるのは、蛆虫の海の中で見つけた、幾人かの例外の事。 食わせ物の医務室の主、禿げた頭の研究者、セクハラ連発なスケベ爺……彼らは全員、平民と貴族の垣根の無い人間であり、没落貴族であるフーケを完全なる同格の存在として扱った。 彼らは自分の死に関して怒るだろうか? 悲しむだろうか? 少なくとも、他の貴族たちとは違う反応を示してくれるだろう……彼女はそれを確信していた。 だが、 「だからって、戻りたいとは思わないさ」 所詮、彼らはフーケとは違う。フーケは『持たざる者』で、彼らは『持つ者』なのだ。双方の間に共感が存在する事はありえないし、する気も無い。 彼らから向けられる感情が、どれだけ暖かいものであってもだ。 「あたしの居場所はアンタ達の中。そこ以外にはないよ」 「そうか……」 リゾットはそれ以上何も言わずに、無言で星空を見上げる。 フーケもそれを追って空を見上げ……星空の絨毯に横臥する二つの月を、眼を細めて眺めた。 『おでれーた! 相棒はてーしたもんだぜ! ご主人様のダンスの相手をする使い魔なんて、始めてみたぞ!』 デルフリンガーが驚嘆する眼前で、主従は踊る。 ダンスの経験絶無の才人だったが、ルイズが彼に調子を合わせて踊ってくれたおかげで、なんとか体裁を保つ事はできた。 とはいえ、ぎこちないステップと流れるようなステップの生み出す不協和音は避ける事ができなかったが…… 「ありがとう」 舞踏の最中、ルイズが何の前触れも無く礼を口にしたので、才人は驚いた。 「な、何がだよ……?」 「だって、灯の悪魔の時とか、昨日の傭兵の時とか……私を助けてくれたじゃない。危ないところを、その、抱き上げて……」 「……気にすんなよ」 照れ隠しをするようなルイズの様子に、才人は笑った。 ああ、畜生……今日のこいつ可愛いじゃねーか! と頭を抱えたくなる。 「俺は、お前の使い魔だろ? 守るのは当然の事さ」 かっこつけて言い切って、自分がギーシュのような言動をしている事に気付き、一寸へこんだ。 目を覚ましたら……目の前に、天井があった。 (なんだか、前にもこんな事があったような気がするな) ボーっとして精彩を欠く頭でコメントして、それがいつだったかを思い出す。 そうして辿り着いたのは、リンゴォと言うゼロの使い魔との決闘……その後に直行した医務室での目覚めだった。 それと比べると、あたりがかなり暗く、時刻は夜中であるようだった。 (と、いう事はここは医務室? 確か、僕は……) 少しずつ少しずつ回転を早める頭脳でもって、紐を手繰るように自分がここにいる理由を思い出す。 真夜中に現れた星屑騎士団の隊長。 名前で悩む自分と、それに声をかけてきたゼロの主従。 三人に声をかけてきた衛兵。 衛兵に化けた黄色い肉を操るスタンド使いとの、恐ろしい戦い。 皆の援護を得て掴み取った、薄氷の勝利…… (あ、そうか……僕はあの後痛みで気を失って倒れたのか) その時の痛みと右拳の惨状を思い出し、ギーシュの顔面から血液が全面撤退を開始した。 水の秘薬を使えば十分に治る怪我だとわかっていても、自分の手がぐちゃぐちゃのボロボロになっていたのだ。 ばっと、己の右腕を目の前にかざそうとして……そこで始めて、自分の腕に感じる圧迫感に気付いた。 自分の腕を押さえつける物の正体を把握しようと、視線をめぐらせたギーシュはその意外な正体に目を丸くする。 (へ? も、モンモランシー??) ベッドに横たわるギーシュの体によりかかるようにして眠っていたのは、モンモランシーその人だった。 気付いてから、息を呑む。彼女は、いつも着ているような素っ気の無い制服ではなく、若葉色のパーティドレスに身を包んでいたのだ。 只でさえ普段ではお目にかかれない姿の彼女に、医務室の窓から漏れる、双月の灯りがデコレーションされて、幻想的な美しさをギーシュの網膜に焼き付けて…… 「も、モンモランシー……君はなんて美しいんだ……」 そんな彼女の姿に見とれてしまい、ギーシュは自由な左手でモンモランシーの髪の毛に手を添えて……ふと、気が付いた。気が付いてしまった。 (あれ? ……なんでモンモランシーはパーティドレスなんて着ているんだ?) 素朴て単純な慰問である。パーティドレスとは文字通りパーティの際に着るものであり、日常やお見舞いの際に着るものではない。 それは紳士淑女のたしなみである。 ひょっとして……パーティか何かの帰りに来てくれたのか? そこまで考えが至れば、十分だった。 「あ゛」 そう。今日は確か……フリッグの舞踏会。 学院の恋する乙女達が待ち焦がれる一大イベントの、当日なのである。 (つ、つまりモンモランシーは、フリッグの舞踏会の帰りにここに立ち寄って…… ぼ、僕は思いっきり寝過ごしたのかァーーーーーーーーーッ!!?) 内心で絶叫する我らがギーシュ。思い出されるのは、フリッグの舞踏会を前にしてルンルン気分で選んだ装飾品を抱えて、『自分以外の人間と踊ったらオラオラよ』と顔を赤くして告げてくるモンモランシーの姿だ。 自分の想い人の思わぬ姿にハートを直撃され、2も3も無く首肯したギーシュだったが…… (ま、不味いぞ! 彼女は、今日と言う日に僕と踊る事を楽しみにしていただろうに……それを寝過ごすとはなんたる不覚!) 「んみゅ……ギーシュ……!?」 ――傍らで目覚めたモンモランシーの声は、比喩でも揶揄でもなくギーシュの時を凍りつかせた。 そこで始めて、自分の動揺した気配が彼女を刺激し、目覚めさせてしまたことに気付く。 猫みたいな寝息がかわいらしかったとか、そういう理由からではない。 彼女との約束をすっぽかした自分に対する罪悪感からくる硬直……故にギーシュは一言も発する事ができない。 モンモランシーの寝ぼけ眼が、自分を確認した瞬間怒りに燃えたことも、それを助長した。 「あ、いや……モンモランシー!? ぼ、僕は、あの……ご、ごめん! まさか、寝過ごすとは……!!」 「…………」 わたわたと弁明するギーシュに、モンモランシーは―― ぽろっ 何の前触れも無く。 見開いた両の眼から、大粒の涙を落とした。 (へ????) 一瞬、寝ぼけた結果流れた涙かと思ったが、違った。モンモランシーの怒れる双眸からは次々と涙が溢れ出し、シーツに雨粒となって落ちる。 「よかっ……た……」 「も、モンモランシー?」 「この馬鹿ぁ……」 なじる言葉にも力が無く、その小さな体は頼りなく震えるだけだった。 「なんであんたは……そうやって危険なところに飛び込んで死に掛けるの? 今月何回目だと思ってるのよぉ……」 モンモランシーは、怒りつつも己の正直な心情を吐露した。ギーシュの決闘による瀕死の重症をきっかけとした連続入院は、彼女の心に喪失の恐怖を植えつけていたのだ。 退院しては死に掛け、退院しては死に掛け……モット伯の一軒で彼女自身が痛めつけた分を含めれば、もう4回目なのである。 しかも、今回は彼女の見ていないところで勝手に戦って勝手に死掛けたのだ。不安を感じないほうが、おかしい。 正直、フリッグの舞踏会の事など、彼女の脳裏から完全に消えうせていた。 「モンモランシー……大丈夫だよ。僕は……」 「何が大丈夫なのよっ……人にコレだけ心配させておいて……」 必死で慰めようとするギーシュだったが、全てが徒労に終わる。 泣く子にゃ敵わぬという表現ではないが、今のモンモランシーはギーシュの言葉に聞く耳を持たなかったのだ。 とうとうベッドに突っ伏して、啜り泣きを始める彼女を前にして、ギーシュは苦悩した。 一体どう説得したものか……女性に喜ばれ慕われる経験は豊富でも、マジ泣きされた経験は絶無に近いギーシュでは荷が重かった。 いつもの気障な言葉では余計泣かせてしまう事くらいは理解できる分、不自然な沈黙が続いてしまい……ふと、その沈黙の中でギーシュは思い出したことがある。 ゆっくりとした動作でむずがるモンモランシーの頭をなで、スタンドを傍らに出現させると、ギーシュは意を決して言葉を紡いだ。 「モンモランシー、今日の君は水の精霊のように美しいね」 「……! 何よ! 私は真剣な話を……」 「その君に誓おう」 激昂しかけるモンモランシーを抑え、ギーシュは宣言する。 「水の精霊に誓うように、君に誓おう。 来年のフリッグの舞踏会を、君と一緒に踊る事を誓う」 「――え?」 「それまで僕は絶対に死なないし斃れないから、心配しないでおくれモンモランシー」 フェンスオブディフェンス。柵で守る者……それがギーシュのスタンドにつけた名前であり、意味。 (僕と僕のスタンドは、君への誓いを絶対に守り通して見せる) その時のギーシュは、いつもの気障なノリではないにしろ、そこまで事態を重く見て誓いを立てたわけではない。 「そ、そういえばフリッグの舞踏会は……?」 「へ!? い、いや……僕に聞かれても困るよ……多分、終わってるんじゃないかな」 故に、彼は知る由も無かった。 彼がたった今恋人に立てた誓いが、とてつもなく困難な道であるという事を。 「そんなぁ……せっかくめかしこんできたのに……」 「ご、ごめんよモンモランシー……」 「……べ、別にいいのよ。ギーシュだけのせいじゃないし。それより……」 『困難な道』に『栄光の光』を降り注がせ、『光り輝く勝利者の道』へと変える事が出来るのか? その答えをギーシュが掴むのは、大分先の事である。 「さっきの約束、守ってよね!」 ギーシュ・ド・グラモン: 退院後、訓練場でスタンドの能力把握にいそしむ事となる。 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ:寝起きでギーシュにわめいた内容が恥ずかしかったらしく、しばらくは合うたびに顔を赤くしていた。 平賀才人: ギーシュの特訓に付き合って、ガンダールブの使い方の把握にいそしむ。なお、食事事情はテーブルについての食事が許されるなど、改善されたようだ。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール: 相変わらずのツンデレ女王様ぶりだったが……才人に着替えを手伝わせたりはしなくなったらしい。 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー:敵にダメージを与えられなかったのが堪えたのか、影で色々特訓するようになった。 タバサ: キュルケの特訓に付き合ったりして、髪の毛一本分ほど人付き合いに積極的になった。 イカシュミ・ズォースイ(リゾット・ネェロ):引き続き学院への潜入を続行する事となった。 ジョータロー・シュヴァリエ・ド・クージョー: ラバーソールにオラオラをぶちかまして事情聴取する。 オールド・オスマン: フーケへの対応が完全に後手後手に回った事に歯噛みし、全国指名手配の礼状を申請。 ラバーソール:承太郎にオラオラされて事情聴取されるも、彼の情報に価値はなかった。 『博士』:雌伏の時という事で、暇な時は家でゴロゴロしているらしい。
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シエスタに案内してもらった先は食堂の裏にある厨房だった。 中に入ってみるとコックやメイドが忙しげに働いていた。その姿自体は地球のそれと大差は無かった。 厨房の隅の椅子に座らせてもらい、 (魔法で金属は作れても料理までは出来ないのか。魔法とは言え、万能とはいかないのか…) と思っているとシエスタがシチューを持って来てくれた。 「貴族の方々にお出しする料理の余り物で作ったシチューですが…」 「いや、すまない。恩に着る。」 「いえいえ、困ったときはお互い様です。」 ポルナレフはこの世界に来て初めて他人から優しくされ、何年ぶりかの精神的、身体的安らぎを感じた。 冷めない内に、と言われたのでスプーンを取り一口食べてみる。 「…懐かしいな…」 「どうかしましたか?」 「いや、ただこのシチューの味がお袋が昔、作ってくれたのと同じ気がしてな…本当に美味しいよ。」 「そうでしたか。お腹が空いたら何時でもいらして下さい。 私達の食べているものでよかったら、お出ししますから。」 …この時、ポルナレフは心の内の半分しか話さなかった。 彼にとって食事自体が懐かしかったのだ。 しかし、まさか「死んでた」などと言っても信じられまいと思ったので黙っておくことにしたのだ。 「ポルナレフさんは先程ご飯抜きにされたと言ってましたが何をなされたんですか?」 「うん…まあ私が悪いような気もするのだが…しかし半分は違う気もする。朝にちょいと揉め事があってな。授業後にもな」 ポルナレフが一部始終を語ると 「あはは、やっぱり半分は貴方のせいじゃないですか」 とシエスタは笑った。 その笑顔をまともに見れずポルナレフは辛そうに顔を背けた。 「さて、では約束通り何か手伝おうか。」 食べ終わると立ち上がってそう言った 「あ、別に気にしなくて構いませんよ。ゆっくりしていてください。」 「いやいや、これからも当分世話になるんだ。一方的に世話になってたんじゃ私の誇りに傷がつく。」 シエスタは遠慮がちに 「それじゃあ、デザートを運ぶのを手伝ってくださいな。」 ケーキの並んだトレイをポルナレフが持ち、シエスタがひとつひとつ貴族に配っていく。(亀は厨房に残してきた。) 「あれ?あんな給仕いたっけ?」 「新入りだろ。多分」 「変な髪型だな」 (何で亀がいないと俺は使い魔だと気付かれないんだ?そんなに亀が好きか貴様等…。) そんなことを考えているとふと金色の巻き髪に造花の薔薇をフリルのついたシャツのポケットに挿したキザな少年が友人達と何か喋っているのが目に入った。 「なあ、ギーシュ!お前、今は誰とつき合っているんだよ!」 「誰が恋人なんだ?ギーシュ!」 「つき合う?僕にはそのような特定の女性はいないのだ。 薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね。」 それを見てポルナレフは若き日の自分を思い出した。 ああ、自分があいつぐらいの頃はなあ、と思い出に浸っていると、 ギーシュと呼ばれた少年のポケットから何かの液体が入ったガラスの瓶が落ちたのにシエスタが気付き、 ポルナレフを待たせて取りに行った。 しばらくすると茶色のマントを着た女子生徒が近寄って行き、平手打ちした後、 今度はまた別の女子生徒が近寄るなりワインを頭からかけた。 あーあ、可哀相にと同情していると少年は立ち上がり怒りにわなわなと震え、シエスタに何か叱り付けた。 シエスタが異常に怯えているので気になり、トレイを近くのテーブルに置き、騒ぎの方へ向かった。 「一体どうしたんだ?シエスタ。」 「あ…ポ、ポルナレフさ…」 「なんだい君は!?無関係ならどきたまえ。」 やたら高慢な態度に出るのでムッとして 「やれやれ、これで三人目だぞ。女の子を泣かすのが趣味なのか?小僧。」 と返した。 「何だと…!」 「さっきの娘達も泣いてたぞ。 何だっけな?『薔薇は多くの人を楽しませるために咲く』だったか? ありゃ嘘だな。『薔薇は多くの人を泣かせるために刺がある』が正解だ。」 周りにいるギャラリーがドッと笑った。 「その通りだッ!」 「もう何人も泣かしてるしな!」 そんなギャラリーを睨みつけ、ギーシュは言った。 「貴様…!平民なら平民らしく貴族に話を合わせれば良かったんだ! だからそいつに罰を与えようとしたんだ!」 ポルナレフはもう呆れ果て、こいつはただの上っ面から出た馬鹿だな、と思った。 「俺だって恋は富や名声なんかよりずっと大切だと思う。 だが、二股はいかん。全てを失うし、最も女性に失礼かつ嫌われる行為だ。 それを責任転嫁するのはもっと下劣だ。 今回のことを教訓にして新しい恋をするんだな。小僧。」 と言い捨て、後ろを向くとシエスタを促し、さっさと仕事に戻ろうとした。 「どうやら君は貴族に対する礼を知らないらしいな。」 振り向くとギーシュは杖を握りしめ、こっちを睨んでいた。 「知らんな。ただ、貴様より女性に対する礼は知っているつもりだが?」 またギャラリーがドッと笑った。 「良かろう。君に礼儀を教えてやろう。ちょうどいい腹ごなしだ。」 「後にしてくれ。貴様なんかよりこっちの仕事の方がずっと大切だ。」 と言い、仕事に戻ろうとした。が、 「おのれ!また侮辱するかッ!この腑抜けが!」 ギーシュが放った言葉にポルナレフの動きはピタッと止まった。 「小僧…貴様…死んでも知らんぞ…?」 ポルナレフは明らかにキレていた。 久しぶりに自分の誇りを侮辱されたのだ。しかも女性を泣かした下劣なこの馬鹿にだ。 「それでいい…」 ギーシュはニヤリと笑うとくるりと背を向け、キザったらしく 「ヴェストリ広場で待っている。ケーキを配り終わったら来たまえ」 と言って友達を連れ立ち去って行った。 ポルナレフはヴェストリ広場の場所をシエスタに聞こうとして、 彼女の顔が強張っているのに気がついた。 「あ、あなた、殺されちゃう……。貴族を本当に怒らせたら……」 と言い残し逃げてしまった。入れ代わりにルイズが近寄ってきた。 「あんた、何勝手に決闘の約束なんかしてんのよ!」 「まあ、そうなってしまったようだな。」 「あんた、謝っちゃいなさいよ。今ならまだ許してくれるかもしれないわ。」 「嫌だな。仮に謝ったところであいつは許さんだろう。俺だったらそうだからな。」 「分からず屋ね。絶対に勝てないし、あんたは怪我するわ。いいえ、怪我ですんだら良い方よ!」 「そんなこと、元の世界じゃしょっちゅうだったが、最後まで死ななかったから大丈夫だ。」 というとポルナレフは厨房の方へと歩いていった。 『ある物』取りに行くために…。 To Be Continued...
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第一章 死と再生 第二章 乱心の『ゼロ』 第三章 誇りを賭けた戦い 第三章 誇りを賭けた戦い-2 第四章 平穏の終焉 第四章 平穏の終焉-2 第五章 二振りの剣 第五章 二振りの剣-2 第六章 土くれと鉄 ~あるいは進むべき二つの道~ 第六章 土くれと鉄 ~あるいは進むべき二つの道~-2 第六章 土くれと鉄 ~あるいは進むべき二つの道~-3 第六章 土くれと鉄 ~あるいは進むべき二つの道~-4 第七章 双月の輝く夜に 第七章 双月の輝く夜に-2 第八章 王女殿下の依頼 第九章 獅子身中 第十章 探り合い 第十一章 土くれのフーケの反逆 ~ またはマチルダ・オブ・サウスゴーダの憂鬱 ~ 第十二章 白の国アルビオン 第十三章 悪魔の風 第十四章 土くれと鉄Ⅱ ~ 誉れなき戦い ~ 第十五章 この醜くも美しい世界 第十六章 過去を映す館 第十七章 真実を探す者、真実を待つ者 第十八章 束の間の休息、そして開戦 第十九章 夕暮れに昇る太陽 第二十章 タバサと小さなスタンド使い-1 第二十章 タバサと小さなスタンド使い-2 第二十一章 惚れ薬、その傾向と対策 第二十二章 過去 第二十三章 惚れ薬、その終結 第二十四章 怒りの日 前編
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前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 学院の宝物がフーケに盗まれた! そのニュースは学院中を駆け巡り、ルイズと康一が目を覚ましたときにはすでに大騒ぎになっていた。 廊下を歩いていると、キュルケとタバサが駆け寄ってきた。 「おはようダーリン!聞いた?昨晩学院に賊が入ったらしいわよ。」 キュルケはやや興奮気味である。 「それならもう知ってるわよ。この学院で一番最初にそれを知ったのはわたしたちだもの。・・・ていうか、使い魔にはあいさつしてご主人様であるわたしになにもなしってどいういわけ?」 ルイズが口をとがらす。 「あーら、ルイズ。いたのね。あたしの頭はダーリンのことでいっぱいだから、あなたみたいなちんちくりんの入る余地なんてないのよ。・・・で、一番最初にってどういうこと?」 昨夜のことを思い出したルイズがため息をついた。せっかくのチャンスを逃したことでずいぶんと気落ちしている。 「昨日の夜、ぼくらが最初にフーケを見つけたんだ。」 康一が代わりに説明した。 「あら。すごいじゃないの。で、どうだったの?」 「すっごいでかいゴーレムが出てきてさ。捕まえるどころか、逃げ回るので精一杯だったよ。」 「ダーリンが手も足も出ないなんて、さすがハルケギニア中の貴族を翻弄する大盗賊だけあるわね。」 康一は頷いた。ギーシュもゴーレムを使っていたが、はっきり言って桁が違う。 「まぁ、それで朝一で学院長室に出頭するように言われてて、今から行くとこなんだよ。」 「ふーん、おもしろそうね。あたしも行くわ。タバサも行くでしょ?」 後ろに尋ねると、タバサはこくりと頷いた。 「あんたたち、フーケをみた訳じゃないんだから、来たってしょうがないじゃない。」 ルイズは見るからに嫌そうだ。 「このまま授業に出るよりもおもしろそうだもの。ねぇいいでしょダーリン!」 ルイズは渋ったが、結局キュルケとタバサもついていくことになった。 4人が学院長室の扉をあけると、中にはもう十数人の教師たちがいて、殺気だった議論を戦わせていた。 突然入ってきた生徒たちに入り口付近にいた教師たちが不審そうな顔をするが、何も言ってはこなかった。 「この魔法学院に忍び込むとは、なんといまいましい盗人め!」 「しかも盗まれたのはよりにもよってあの『弓と矢』というではないか!王宮になんと申し開きをすれば・・・」 「だいたい昨夜の当直はなにをしておったのだ!」 全員の視線が一人の中年女性に向けられた。 以前ルイズの練金でKOされた、ミセス・シュヴルーズだ。 シュヴルーズは青くなった。唇がわななき、目は泳いでいる。 やせぎすの男性教師がシュヴルーズに詰め寄る。 「確か、昨夜の当直はあなたでしたな。ミセス・シュヴルーズ。さぁ、昨夜にあったことを説明してもらいましょうか!」 シュヴルーズは黙り込んだ。言えない。言えるわけがない。まさか学院に賊が入るとは夢にも思わず、当直をさぼって部屋で寝こけていたとは。 男――ミスタ・ギトーは目を細めた。 「失態ですな。ミセス。この責任をどう取られるおつもりで?」 「わ・・・わたしは・・・」 おろおろと周りを見回すが、同情の視線こそ帰ってくるものの、助けに入ろうとするものはいない。 「まぁまぁ、そのへんにしておきなさい。」 しかし奥の扉から、オールド・オスマンが入ってきて助け船を出した。隣にはミス・ロングビルが控えている。 「しかし、ミセス・シュヴルーズが当直をさぼったおかげで、みすみすフーケの進入を許したのですぞ!この責任をどう取らせるおつもりですか!」 よっこらしょ、とオスマンは椅子にすわった。 「この中に当直をまじめにやったことのあるものはおるかの?おらんじゃろう。それがたまたまミセスの担当日だっただけで、別の日であったとしても、同じことじゃったろう。」 教師たちは黙り込んだ。皆思い当たる節があるのだ。 「わしらは油断しておったのじゃ。まさかメイジの巣たる魔法学院に入るような盗賊がいるわけがない、とな。だから生け贄を探すようなまねはやめなさい。あえて責任を問われるとすれば、学院の長たるこのわしこそがそれにふさわしいじゃろうの。」 ミセス・シュヴルーズはオスマンの手を握り、ひざまづいた。 「ありがとうございます!ありがとうございます!」 うむうむ、とシュヴルーズを労う。 「それにまだすべてが終わったわけではない。わしらで『弓と矢』を取り戻せばよいのじゃからの。」 部屋がシンと静まり返った。 一人の教師がおそるおそる手を挙げる。 「あの・・・王宮に報告して、衛兵を派遣してもらえばいいのでは?」 「だめじゃ。これから王宮に使いを出しておったら、間に合うものも間に合わなくなる。それに、仮にも貴族なら、自らの失敗の責任を自らで取る義務があるはずじゃ。」 もう言い返すものはいない。 「よいかな?それではまず、昨夜の報告から聞こうかの。ミス・ヴァリエール。ミスタ・コーイチ。二人は昨夜フーケと交戦したと聞いたが・・・」 室内がどよめいた。 ルイズは口をきゅっと引き結び、オールド・オスマンの前に進み出た。 「はい。昨夜フーケが巨大なゴーレムを使って宝物庫に進入するのを見ました。捕まえようとしたのですが、力及ばず、逃げられてしまいました。」 本当なら、ここでフーケを捕まえたと報告したかった。そうすれば、みんなに認めて貰えたのに・・・。 オスマンは髭を撫でた。 「では次に、ミス・ロングビルから報告をしてもらおうかの。」 もう、すでに自分は報告を受けているのだろう。手を組み、不安げな教師たちの様子を眺めている。 オスマンの後を受けて、ミス・ロングビルが手元の紙をめくった。 「あれから聞き込み調査を行ったところ、近在の農民からの、フーケらしき男をみたという目撃証言がありました。そしてその居場所らしきところも、もうつかんであります。」 な、なんですと!?教師たちがどよめく。 「その証言者によると、フーケはここから半日ほど先にある森の中の小屋に入っていったそうですわ。」 「要するにじゃ・・・。今回は幸運にも、フーケの居所がつかめているというわけじゃ。」 オスマンはすっくと立ち上がった。 「よって、学院から盗まれた『弓と矢』を我々の手で奪還する!我こそはと思うものは名乗り出よ!」 賢者オールド・オスマンの一喝であった。 しかし名乗り出るものはいない。お互いがお互いの顔を見まわす。 誰かが解決してほしい。しかし自分が危険な目に遭うのは嫌だ。と顔に書いてある。 「どうした!おぬしらには貴族としての誇りがないのか?」 しかし答えるものはいない。 そんな中、一人、決然と手を挙げるものがいた。 「ルイズ!」 「ミス・ヴァリエール!?」 そう、先ほど目撃談を証言し、それで役目を終えたと思われていたルイズである。 「わたしが行きます。」 ルイズには覚悟があった。「貴族としての誇り」。自分が手をあげることで、それが得られるのならば。フーケをむざむざ逃がしてしまったという汚名を返上する機会が与えられるのならば! 「本気かね?」 オスマンは静かに訪ねた。 「はい。」 決意は固い。 それまで黙りこくっていたコルベールが叫んだ。 「取り消しなさい。ミス・ヴァリエール!生徒に解決できるような問題ではありません!」 「だって、先生方は手をお挙げにならないではないですか!」 ぐっ、とコルベールは言葉がつまらせた。 生徒を止めたい。しかし、志願せず、どこかの誰かに責任をゆだねようとした自分に彼女を止められるだけの言葉はない。 今まで黙って聞いていただけだったキュルケがルイズと同じだけ、前に進み出た。 「では、あたしも志願いたしますわ。」 「キュルケ!なんであんたまで・・・!」 ルイズは驚きの声をあげた。 キュルケは優雅に髪をかきあげた。 「ヴァリエールだけに手柄を取らせたとあっては、ツェルプストーの名が泣くわ。」 するともう一人、杖を上げて進み出るものがあった。タバサである。 「タバサ!あなたまで付き合う必要はないのよ!?」 「心配。」 タバサは一言だけ、ぼそりとつぶやいた。 感極まったキュルケはタバサを抱きしめた。 しかし、それでは収まらないものたちがいる。学院の教師たちである。 自分たちは行きたくない。しかし、生徒に生かせては教師として立つ瀬がない。 「学院長!危険すぎます!ここはやはり王宮に応援を頼むべきです!」 ミスタ・ギトーが教師たちの心中を代弁した。 しかしオスマンは、憤る教師たちを制した。 「彼女たちは貴族としての義務を果たすべく、自ら志願したのじゃ。それを止める道理はあるまい?」 「しかし・・・」 「それに、彼女たちがただの学生だと思ったら大きな勘違いじゃ。たとえば・・・」 タバサに目を向ける。 「ミス・タバサはこの年でシュバリエの称号を持っておる。この意味は分かるじゃろう?」 シュバリエとは貴族階級の最下級である騎士位のことである。 子孫に継承することすらできない、一代限りの位である。だからこそ自らの手で手柄を立てなければ持つことのできないということでもあり、実力と経験を証明する特別な称号なのだ。 「それに、そこなミス・ツェルプストーは、代々火の優秀なメイジを輩出しつづけ、ハルケギニアにその名を轟かすツェルプストー家の者であり、本人も相当に卓越した火の使い手と聞いておる。」 キュルケがただでさえ大きい胸を張った。 「そしてミス・ヴァリエールは・・・」 今度はルイズが小さい胸を精一杯張った。 えーっと・・・。オスマンはしばらく中空に言葉を探し、ゴホンと咳払いを一つ。 「ミス・ヴァリエールは非常に努力家であり、今回のフーケ発見も、夜遅くまで魔法の練習をしていたからだと聞いておる。それに、爆発の呪文に長けており、トライアングルクラスのミス・シュヴルーズすら一撃で昏倒する威力と聞く!」 物は言いようである。 「そして、彼女の使い魔は、平民ながら、ドットメイジとしては頭一つ抜けておるギーシュ・ド・グラモンとの一騎打ちに見事勝利した使い手である!」 「おお、なるほど!!」 コルベールがぽんと手を打った。 「ガンダールヴの力があれば、いかにフーケといえども・・・」 「おーっと、頭に蚊が止まっておるぞコルベール君ッ!!」 コルベールが何かをいおうとした瞬間、オスマンの杖が最近殊に薄くなってきたハゲ頭を目にも留まらぬ早さでぶったたいた。 昏倒するコルベール。 コルベール先生も知ってたのかぁー!? 事情を知る康一は、危ういところだったと青くなった。 事情を知らない教師たちはぽかんとしている。 「・・・何でいきなり?」 「うむ。蚊は危険じゃぞ。病気を蔓延させたりするし、夜枕元でプンプンいわれると、気になって眠れなくなったりするからの。」 誰がどう見ても不自然だった。しかしオスマンは持ち前の威厳で無理矢理乗り切ることに決めたようだ。 「さぁ、こんなことは大事の前の小事である!蚊などに気を取られることなく、見事『弓と矢』を取り返してくるがよい!勇者たちよ!」 教師たちは不可解ながらも、まぁそんなものか。と思うことにした。 「ところで、その『弓と矢』というのはいったいなんなんです?聞く限りはそんなに大騒ぎするものとも思えないんですけれど。」 コルベールとかその辺は心底どうでもいいキュルケが手をあげた。 「うむ。いい質問じゃな。」 話題を逸らせてほっと一息のオスマン。 「宝物というからにはもちろんただの弓矢ではない。いや、正確に言うとない『はず』じゃ。」 「はず・・・といいますと?」 「わしも含めて誰もその『弓と矢』が特別なところを見たわけではないからじゃ。見た目もそこまで変わっておらんんし、魔力も感知できん。」 「じゃあただの弓矢なんじゃないですか?」 ルイズが思ったまま疑問を述べた。 「うむ。しかし、あの「『弓と矢』にはトリステイン王家に代々伝わる伝承があるのじゃよ。伝承にはこうある。『此の矢世に出すべからず。平民これを手にするとき、悪魔現る。世界を滅ぼす災厄なり。』とな。」 教師たちはもうその伝承を知っているのであろう。驚く様子はない。しかし、初耳の生徒たちにとっては衝撃的である。 「世界を滅ぼす・・・とは大きくでましたわね。」 キュルケもそういうのが精一杯である。 しかし正直なところをいうと、嘘臭い。 それが顔に出ていたのだろう。オスマンはふぅーっと長く息を吐いた。。 「気持ちはわかる。じゃが実際王家にはこういった伝承が数多くのこされておる。やれ、風よりも早く飛ぶ船やら、始祖の残せし魔導書やら、数え上げるとキリがない。」 「わしもそれが本当かどうかは知らん。じゃが、それでも王家が先祖から守るように言い遣ったものじゃ。盗まれました、なぞと言おうものなら王家の面目は丸つぶれじゃよ。だからなんとしても取り返さねばならん。」 それにしても・・・。ロングビルが眉根をよせた。 「わざわざ平民に渡すな、としているあたり。どう使うのかが疑問ですわね。」 「そうじゃのぉ。魔力もない、形も普通となると、鏃に毒でも塗られておるのかもしれん。もしくは撃って初めて効果が現れる類なのかものぉ。だからといって、実際試してみようというものも今までおらんかったが・・・。」 「そうですわね・・・。」 ロングビルはなにやら考え込んでいるようだ。 「まぁなんにせよ、道案内は必要ですわ。私がその証言にあった小屋までお連れしますね。」 「おお、そうしてくれると助かるのぉ!」 いくら実力があるとはいえ子ども達だけに行かせるのは心配だ。信頼できる大人がついていってくれればこちらとしても安心である。 では、用意が出来次第、出発するように!とオスマンが最後に言って、この場は解散となった。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
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サモン・サーヴァントに『爆発して』失敗するルイズは、学院長の取り計らいによりトリスティン魔法学院の二学年として授業を受けている。 本来ならサモン・サーヴァントすら成功しないルイズは、使い魔を召喚するまで進級できないはずだが、オールド・オスマンはルイズの『爆発』に目を付けた。 『彼女はすでに新種の使い魔を呼び出しているのではないか?』 そう言って、オスマンはルイズの進級に反対する教師達を黙らせていた。 実際には、土塊のフーケと戦った時の痕跡から、何らかの使い魔を呼び出していることは予想していたが、その確証はない。 温情と言えば聞こえは良いが、オスマン氏はルイズに、執行猶予を与えているとも言えるのだ。 ルイズは自分部屋で、腕から伸びる半透明の『腕』を見た。 おそらく自分の使い魔であろうこの『腕』は、五体が揃っているのは感覚で理解している、しかし今はまだ『腕』だけしか自由に動かせない。 ベッドに座ったまま、エルフの使う『先住魔法』のことを思い出した。 エルフは杖も使わずに魔法を使うとか…もしかしたら、これはエルフの使う『先住魔法』なのではないだろうか。 この腕は、障害物をすり抜けられるくせに、ものを掴むことができる。 しかも精神を集中すれば、半透明な状態で人に見せることが出来る、これはキュルケとタバサが確認した。 これを使い魔だと主張するにあたって二つの問題がある。 一つは、前例のない『これ』が使い魔として認められるのか分からないこと。 もう一つは幽霊騒ぎの件だ、キュルケとタバサが目撃した幽霊は明らかにこの『腕』だ。 幽霊騒ぎは、トリスティン魔法学院を一時混乱に陥れ、キュルケとタバサ(と自分)を驚かし、ちょっと人には言えないような恥ずかしい目にあわせのだから。 マリコルヌを全力でブチのめした後、二人にこんな事を言われた。 「幽霊の正体があんたの使い魔だってバレたら…全生徒から恨まれるでしょうねぇ~♪」 「…使い魔の不始末は主人の責任」 キュルケはルイズの弱みを握って気分を良くしていたが、タバサからはシャレにならない殺気を感じた。 とにかく、今のルイズには、部屋でため息をつくことしか出来なかった。 その晩、ルイズの部屋を誰かがノックした。 間を置いて叩かれる回数に、誰が訪問したのか気づき、客を迎えた。 「こんばんは、ルイズ」 「姫様、今日、ここに来られたということは…」 アンリエッタはいつものようにディティクト・マジックで部屋を調べてから、フードを脱いだ。 子供の頃のように、ルイズの隣に座る。 「ゲルマニアの皇帝に、書簡が届き、その返答が送られてきました。内容は私を正室(正妻)として迎えるとの事です」 「………そう、ですか…」 しばらく、沈黙が流れた。 「…思い過ごしならば良いのですが、一つだけ腑に落ちないのです。わたくしの婚約だけではなく、軍事的な提携に関しての要求書も添えられていたはずなのです、それはトリスティン側に有利な内容です。本来なら…わたくしの婚約だけでは見合わない内容でしょう」 ルイズはじっとアンリエッタ姫の話を聞いていた。 姫が言うには、トリスティン側が望む婚約の条件が、かなり高い状態であること、それにより婚約を引き延ばしできると考えたが、ゲルマニアは条件をすべて呑むということ。 アルビオン貴族派がトリスティンへ侵攻を開始した場合、おそらくゲルマニアは何か理由を付けてトリスティンを見捨て、国力が低下したところでトリスティンに介入、そして王族と貴族をゲルマニアの支配下に置く… アンリエッタとマザリーニ枢機卿は、ゲルマニアにすら不信感を抱いていた。 ルイズは知らなかったが、アンリエッタはマザリーニのことを嫌っている、しかし今回の出来事はアンリエッタに危機感を抱かせ、図らずしてアンリエッタとマザリーニの政治的信頼は強くなっていたのだ。 一通り政治の話をしてから、アンリエッタはベッドから立ち、懐からトリスティン王家御用達の紙を取り、ルイズのペンを借りて書状を書き始める。 そのときのアンリエッタの表情は恋する乙女のそれでありながら、どこか陰のある姿で、胸の奥の悲痛な思いを一文字一文字に込めているようだった。 「ルイズ、この手紙をアルビオンのウェールズ皇太子に届けて欲しいのです、アルビオンの貴族派は王都を囲む準備を整えたと言われています、王城に攻め込まれる前に…」 「しっ!」 ルイズはアンリエッタの言葉を遮った。 扉の外から気配を感じ、誰かが扉の外で聞き耳を立てているのが分かる、これはルイズの感覚ではなくスタープラチナの聴覚だが、ルイズはまだ自覚できない。 アンリエッタをカーテンの後ろに立たせてから、ルイズは扉を勢いよく開けた。 「どわっ!?」 ごろん、と転がり込んできたのは、青銅のギーシュ、正しくは『ギーシュ・ド・グラモン』だった。 転がりつつも薔薇の造花を手に持つ根性は見上げたものだが、ルイズは扉を閉めながら(二股のギーシュがのぞき見のギーシュに格上げね)などと考えた。 「何やってんのよあんた」 ルイズの質問に答えようともせず、ギーシュは立ち上がり、薔薇の花を両手に持ち直してこう言った。 「薔薇のように麗しい姫さまのあと追っておりますれば、こんな所へ……、下賤な学生寮などで万が一のことがあってはと、鍵穴から様子をうかがっておりましたところ…」 「ふーん、要はのぞき見? 重罪よね」 そう言ってルイズはアンリエッタを見る、アンリエッタは困ったような表情でルイズを見たが、『とても楽しそうな』笑顔を見せていたので、アンリエッタはルイズの意図を汲んだ。 「そうですね…公式な訪問ではないとはいえ、先ほどの貴方の言葉を借りれば、私をアンリエッタと知りながら後を追い、そして部屋を覗き見したと言うことになります」 「姫さま、非公式とはいえ姫殿下訪問の御席は、王宮に準じると聞いています、故意に不作法を働いたのであれば侮辱にあたると存じ申し上げます」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの進言、この部屋の主たる責を負ってのものとして真摯に受け取ります、ではこの者に一級以上の罰を与えねばなりませんね」 ギーシュは顔を真っ青にした。 この世の終わりのような顔とは、こういうのを言うのだろうか、二股がバレた時とは比べものにならない。 ルイズは内心で「やりすぎたかな?」と考えたが、たまには良い薬だろうと思って何も言わなかった。 「ルイズ、この者の名は?」 「グラモン元帥のご子息、ギーシュ・ド・グラモンでございます」 「では…」 アンリエッタはギーシュの前に手を出した、貴族の作法で言えば、手に口づけを許すという事だ。 呆然としていたがギーシュだったが、差し出された手の意味に気づくと、さっきまで死にそうに震えていた男とは思えない程うやうやしく、手の甲に口づけをした。 「では貴方に罰を与えます、私の…アンリエッタ姫としてではなく、ルイズの友人としてのアンリエッタに、力を貸して頂きたいのです」 「任務の一員にくわえてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」 ギーシュの言葉にアンリエッタは微笑む。 「ありがとう。貴方のお父さまも立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいでおられるのですね。…この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」 「姫殿下がぼくの名前を呼んでくださった! 姫殿下が! トリステインの可憐な『薔薇の微笑みの君』が、このぼくに微笑んでくださった!キャッホー!」 感動のあまり、立ち上がってわめき散らし、後ろにのけぞって転び、後頭部を打つギーシュ。 それを見たアンリエッタは「ルイズの友人もおもしろい人ばかりね、うらやましいわ」と心底うらやましそうに言った。 ルイズは、まるで看守にマスターベーションを見られた徐倫のように、嫌そ~~~~~な顔をしていた。 アンリエッタ姫を見送った後、ギーシュは股のあたりを気にしながらヒョコヒョコと部屋に帰っていったらしい。 「そりゃ怖かったでしょうね…」 ルイズは、誰に言うわけでもなく呟いた。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-15]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-17]]}
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ポルナレフはワルキューレに吹っ飛ばされた時、 スタンド無しでナイフだけだとやはりこれが限界か、と思った。 しかし、飛ばされた瞬間、亀の中で矢がまるで『そうなると決まっていたかのように』床の上に落ちた。 そして…その矢はポルナレフの右手に刺さった。 ポルナレフは『これ』を運命が自分にもう一度闘えと命令したのだと受け取った。 そして誓った。この『二度蘇った魂』がまた死ぬまで、運命に導かれるまま、闘い続けると。 「『運命に選ばれた』だって? な、何を言い出すんだい?さっぱり分からないな。」 ギーシュは嘲笑した。 しかし、顔は明らかに強張っている。 ポルナレフから感じる、先程とは全く違う新たな威圧感に、これまた異質の恐怖を感じていたのだ。 「た、ただ、君はまだやるみたいだね。それだけは理解したよ。」 そういうと震えながら、薔薇をポルナレフの方に向け 「い、いいだろう。もう眠っておけ。この平民がッ!」 恐怖を振り払う様に言い放った。 するとワルキューレ達の足元から槍が出現した。 それぞれがそれを手に取ると、再度六体のワルキューレがポルナレフに向かって突進した。 (素手ですら勝てなかったのに、今度は槍!ナイフと槍じゃリーチが違いすぎる! ますます勝ち目は無いッ!) ポルナレフとワルキューレが衝突する瞬間、ルイズは思わず目を背けた。 …しかし槍が刺さる音もナイフと当たる音も聞こえてこなかった。 不思議に思い、恐る恐る目を開けようとした瞬間! 「ルイズー!上、上!」 誰かが叫んだのが聞こえた。 「は!?」 思わず上を見た瞬間! ボギャアッ! 上から何か金属のような物が降って来た。 「タコスッ!」 「おっぱァアアーッ」 「デッ」 ルイズとその他ギャラリーはそれぞれ顔面に何かが直撃し、思い思いの意味不明な叫びを揚げつつ気絶していった。 一方ギーシュは前方の光景に自分の目を疑った。 ポルナレフを中心とし、その周りに空から降り注ぐ鈍い光沢を持つ物体。 それは自分のワルキューレが『あるはずの無い何か鋭利な物』にスライスされたものだった。 「ぼ、僕のワルキューレが…!?」 ギーシュは完全に恐怖に飲み込まれていた。 (青銅は確かに柔らかいが、あんなチャチなナイフじゃ… い、いや、違う!あいつは微動だにしちゃいないッ!杖も持っていない! ま、まさか先住魔法を使えるのか!?) 有り得ない事だが、そう思わざるをえなかった。 「さて、もう六体目まで斬ったが…そろそろ死ぬか?」 ポルナレフは六体目のワルキューレを斬り倒すと言った。 「降伏してもいいんだぞ? まあ、貴様の美学や家柄がどうだか知らんが… 俺から言わせてもらうと自殺したり降伏するより、 相手の力で死ぬ方がずっと気高い死に方だと思うな…」 「な…何を言いたいんだい?」 「貴様には選ぶべき『二つの道』があるということだ。 名を憂いこのまま闘うか。それとも、命を惜しみ降伏するか、だ。」 ギーシュは悩んだ。 このまま戦えば間違いなく勝ち目は無い。 命を失うかもしれない。 しかし、この男の言っている事は正にグラモン家の家訓である。 名か、命か。二者択一。 ギーシュは考えた。 …………… ギーシュは覚悟を決めると、ポルナレフを見た。 「メイジは杖を失う時、初めて負ける! 僕はそれまで降伏しない!」 ギーシュはポルナレフに対してそう叫んだ。 「それが『答え』か…それでいい… 貴様が選んだ道が『正しい道』かどうかはこれから分かる。」 ポルナレフは微笑んだ。 ギーシュは残ったワルキューレを全力で突っ込ませ、自身は「フライ」で空に舞い上がった。 ポルナレフは『誰にも見えない騎士』が右腕に持つレイピアを振るい、最後のワルキューレを先程と同様バラバラにした。 空を見るとギーシュは何かを唱え、杖をこちらに向けると大量の石が突っ込んできた。 ギーシュが唱えたもの、それは石礫だった。 だが当然全て弾き飛ばされた。 (ワルキューレはもう作れない… だがあいつの攻撃は近くにまで来ないと使えないらしい。 なら、石礫で闘えばいい!当たらないのなら当たるまでやり続ける…!) ギーシュはまた石礫を唱えた。 ポルナレフには呪文が何を指すのか分からない。 だが、先程から石ばかり飛ばしてくるのをみるともうあのゴーレムは作れないらしい、と理解した。 ならば、とポルナレフは『狙う』ことにした。 (近寄れないなら…『近寄らずに』攻撃すればいい。) ポルナレフは少し横に移動した。 ギーシュはポルナレフが移動したので、それに照準を合わせようとした、正にその時である。 ぺキィ! 「え?」 ギーシュは何かが折れる音と同時に落下するのを感じた。 まさか、と薔薇を見ると真っ二つに折れている。 「い、いつの間にィィイィ!?」 ポルナレフが最後の一つだけを打ち返し、移動によって相手に一瞬の隙を作らせたのだ。 (あいつが打ち返したのか?まさかそんなことがッ! それより死ぬ死ぬッ!) フライが仇となってしまった。 地面に向かって落下するギーシュ。 (さよならヴェルダンデ…僕の愛しい巨大モグラ…) ギーシュは目をつぶった。 「はッ!?」 ギーシュは目を覚ました。 まだ視界はぼんやりしているが、どうやらここは医務室らしいことが分かった。ベッドの脇にはモンモランシーやマリコルヌがいた。 「あ…えっと…ど、どうしたんだい?」 とりあえずギーシュは彼等に話しかけた。 「どうしたんだ、て…負けたんじゃないか。君が。」 「負けた?何の事?」 「『ゼロ』のルイズの使い魔と決闘したんじゃない!忘れたの!?右腕怪我したっていうのに!」 ギーシュは右腕に巻かれている包帯を見てようやく思い出した。ああ、自分の杖が折られて、それで墜落して… 「あの後ギリギリの所で私が『レビテーション』を唱えたの。」 「君が助けてくれたのか。ありがとうモンモ…「御礼より二股したことを謝って欲しいわ。」 そう言うと部屋から出て行った。 「待ってくれよ!愛しのモンモランシー!」 ギーシュがベッドの上で悲痛な悲鳴をあげた。 「相変わらずだな。」 マリコルヌは笑った。 ガチャリ 「ギーシュ!」 「やっと目が覚めたか、小僧。」 ドアが開き、ルイズとポルナレフ(と亀)が入って来た。 「お蔭様でね。」 ギーシュは皮肉っぽく答えたが、ポルナレフは気にする事なく後ろを向き、亀の中から『一輪の花』を取り出した。 「何だい?その花は?」 「これは月桂樹の花だ。俺のいた国では昔、誇り高い男にそれの冠を送る習慣があってな、それに乗っ取ってみた。そういう礼儀もまた趣深いと思ってな。」 そういうと月桂樹の花をギーシュに差し出した。 「薔薇よりこっちの方が今のお前にはずっと似合うと思うぞ。」 「…ありがとう。」ギーシュは少し笑ってそれを受け取った。 To Be Continued...
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「永遠の使い魔」 ○月×日 今日は待ちに待ったコントラクト・サーヴァントの儀式の日、 今日こそ魔法を成功させて私をゼロと呼ぶ奴らを見返してやろうと『思っていた』 『思っていた』という言葉の通り私の召還魔法は失敗した。 正しく言うと成功したのだけど召還したのは平民、それも変な格好をした訳の解らない奴だった… しかも変な格好だけならともかくとして私が…その…契約の為の…キ…キスを(ああもうなんであんな奴にしなければならなかったのよ!) しようとした時何かブツブツ言ってた、ハッキリ言って気持ち悪いし気味が悪かった、それに顔は無表情で何を考えてるかよく解らない。 でも見た目と言葉はともかくとして私が『使い魔になりなさい』と言った時にアイツはすぐに使い魔になることを了承した。 意外と根はまともなのかもしれない、きちんと敬語を使っていたし『洗濯も掃除もどんな雑用も、何でもやります、それに必ず貴女を護ってみせる』 なんて嬉しい事を言ってくれたし…(別に喜んでるわけじゃない、使い魔なら当然の事よ!!) アイツには床で寝させようと思ってたけど忠実な所に免じて学院の余ってるベッドを部屋に運んで(使い魔がやってくれた、結構力持ちみたいだ) そこで寝るように言ったら目を白黒していたけどすぐに喜んで礼を言った。 『必ず…今度こそ護って見せる』なんて訳のわからない事呟いてた、今度って何よ?やっぱり訳が解らない使い魔だ… ○月△日 アイツは結構…いやかなり忠実な使い魔だ。 昨日命令しておいた洗濯は完璧にこなしていたし、着替えも文句言わずにやったし、それに自分から掃除を進んでやってくれた。 かなり雑用はやり慣れてるみたいで、どこかで使用人でもやっていたのか?と聞いたけど違うと言っていた。 ご褒美にメイドに頼んで人間用の食事を用意させてそれを食べさせた(本当は別の物を食べさせようとしたのは内緒だ) アイツは嬉しそうに(と言っても顔は無表情だったが)礼を何度も言った、実に忠実な使い魔だ。 しかも忠実なだけじゃない、頭も良いのだ! 只の平民と思っていたが、魔法の属性といった基礎知識やそれぞれの役割、得意不得意についてそこらのメイジ並み、いや私以上に理解してたのだ。 実はメイジなんじゃないのか?と言ったが違うといっていた、まあ使い魔が賢ければ賢いに越した事はないので良しと思う事にした。 それに優しい使い魔だ… 私がちょっと錬金を失敗させたせいで教室が壊れてその罰として掃除を命じられたのだが、アイツは命令もしていないのに掃除を手伝ってくれた。 それを私は喜ぶべきだったろう…だけどその時私は無性に惨めな気持ちになった。 こんなに忠実で賢い使い魔に対して私は「ゼロ」…思わず八つ当たりしてしまった、でもアイツはこう言ってくれたのだ。 『失敗があってもそれをいつか乗り越えていけば良いんです、私はそれを手助けするための存在ですから。 それに貴女はゼロなんかじゃありませんし、きっと立派なメイジになれます。 貴女は私を絶望から救ってくれた、希望を与えてくれた、かならずその恩を返して見せます。』 嬉しかった…あんなに優しい事を言われたのは生まれて初めてだったからだ… 私が失敗するたびに皆私を蔑む、見下す。家族だってどこか哀れんでいる様な気がしていた。私に味方なんていなかった。 でもあいつは私の味方でいてくれると言ってくれた。 私はきっとアイツの気持ちに応えてみせる。 でも『地獄から救った』というのはどういう意味だろう?私が召還する前の環境はそんなに酷い場所だったのだろうか? ○月◇日 今日は事件が起きた。 起こした原因はギーシュと私自身、それと私の使い魔。 食堂でアイツと昼食を取っていた時ギーシュが小瓶を落とした。 親切にも私がそれを拾って渡してやったがギーシュは『自分の物じゃない』と言い張った、こいつ頭脳がマヌケになったのか? と思ったが『理由』があったようだ、何故解ったかというと私の目の前でその『理由』があっという間にギーシュをフルボッコにしたからだ。 何でも二股してたらしい、やっぱり頭脳はマヌケの様だ。 でも事件はそれで終わらなかった、マヌケは私に文句を付けて来たのだ。 『少しは気を利かせろ』だの『ちょっと話を合わせてくれたっていいだろ』とか実にマヌケらしい事を言ってた。 それだけならまだしもあいつは逆切れしてこう言おうとした。 『そういえば君は「ゼロ」だったね?そんな魔法だけでなく脳味噌も「ゼロ」の君にそんな事期待した僕が…』 マヌケがその続きを言おうとした瞬間アイツが助けてくれた。 あっという間の出来事だった、いきなりマヌケの顔を殴ったかと思うと、 『彼女に「ゼロ」などと言う者は許しはしない』とさらに続けてこう言った、『決闘を申し込む』マヌケは一人じゃなくて二人だった… 私が止めようとしたがアイツはそれを聞かずに『ギーシュ如きに負けはしない』なんて事を言ったのだ… 無論ギーシュはブチ切れて『ヴェストリの広場で待つ!!!!』と言い残して、去っていった。 アイツも直ぐに広場に向かった…どうしよう…このままじゃ…なーんて杞憂も決闘が始まって一瞬で消えた、決闘も一瞬で終わった。 ギーシュが青銅で錬成した「ワルキューレ」を出し決闘を始める宣言をする。 その次の瞬間にアイツがあっという間にギーシュの目の前に現れ、薔薇を模した杖を折って決闘を終わらせた。 凄い速さだった、本当に見えないくらいの速さだった。 アイツは賢くて忠実で優しいだけじゃない。とっても強い最高の使い魔。私の大切な使い魔… ○月◎日 今日は虚無の日、アイツに何か武器を買ってやろうと思った。(別に昨日や一昨日の事を嬉しく思ったからじゃないわよ!!単にいくら力が強くても丸腰だったら危ないからよ!!) でもツェルスプトー(コイツは私の天敵でいつもつっかかって来る!書き忘れていたが一昨日も使い魔を自慢してきたのだ!何がサラマンダーよ!!!こっちは平民でも世界で一番の使い魔よ!!!!) とその友達のタバサ(この子はキュルケと違って静かでおとなしい子、よく解んない所があるけどね…)が 私達の買い物に着いて来たのが気に入らなかった。(タバサは無理やり連れて来られたみたいだからそんなに腹は立たなかったけど) せっかく二人っきり…じゃなくて!とにかく鬱陶しいのよ!色情狂のエロスプトーめ!! 街の武器屋に着くとアイツは直ぐに変な武器を取りそれを買ってくれと言った、折角『もっと良い武器を買ってやる』と言ったのにアイツは、 『この剣に似た剣を使ったことがあります、だから慣れてて丁度良いんです』と言っていたのでその剣を買ってやる事にした。 インテリジェンスソード、しかもボロボロで口の悪い剣なんかに似た剣なんて…アイツはちょっと武器の趣味が悪いのかもしれない… でも散々口喧しかったボロ剣、「デルフ」はアイツが持った時に「使い手」だのなんだの言って結局素直に買われた。 そういえば武器屋の店主が最近「土くれのフーケ」という怪盗が国中を騒がせていると言ったが、その話を聞いた時アイツが険しい顔をしていた。いったいどうしたのだろうか? それよりもあのスケベプトーめ!!何しに付いて来たかと思ったら私の使い魔にアプローチする為に付いて来たのだ!! 『決闘での強さに惚れた』ですって!?冗談じゃない!私の方が先に…じゃなくて!!あれは私の使い魔よ!!誰にも渡すもんですか!!!絶対によ!!!! 別にアイツの事なんか好きでもなんでもないわよ!?単にあんなエロ女にアイツが騙されるのを哀れに思っただけよ!! あのビッチプトーめ…武器屋で私が買おうとした一番高い剣を買ってアイツにプレゼントしようとしたのだ!! まあアイツは『そんな鈍らなんか必要ない』って断ったんだけどね。でも見ただけであの剣が鈍らなんて解るなんて… きっと魔法だけでなく剣の事も詳しいのね。 ○月☆日 今日事件が起きた、それも大事件、決闘なんて比べられないほどの。 最近国中を騒がせている「土くれのフーケ」がこの学院に来たのだ! 巨大なゴーレムがいきなり現れて塔を殴り始め大騒ぎ、何でも学院の宝である「破壊の杖」を狙っていたそうだ。 私はフーケを捕まえる為にゴーレムを魔法で攻撃した、丁度その時にキュルケとタバサが居て私を止めようとしたけど私はそれを無視した。 本当に馬鹿だったと思うわ…二人は私を心配してくれてたのに… でもあの時はそんな事考えられなかった。きっとフーケを捕まえたら立派なメイジとして皆に認められると思ったから… でもゴーレムは何度も再生して倒す事が出来ず私を邪魔者と認識したのか私に向かってその巨大な腕で攻撃してきた。 あの時は本当に死ぬかと思ったわ。 でもアイツが助けてくれた、あっという間の速さでデルフを使いゴーレムの腕を切って、そして決闘の時のように一瞬でゴーレムに飛び乗ってフーケを捕まえちゃったのよ!! アイツの早業にも驚いたけどフーケの正体がミス・ロングビルだったのにはもっと驚いたわ!! (後でオスマンのエロ爺が『セクハラしても怒らなかった、自分に惚れてると思った』などとふざけた理由でロングビルを雇った事を聞いたときには驚きを通り越し呆れたが…) それでも今日一番驚いたのはアイツが私を怒った事、アイツが私を怒るなんて初めての事だった。 でもアイツは本気で私の事を心配してくれた、それにキュルケやタバサも私の事を心配してくれた。 私の事を心配してくれるのはアイツだけじゃない…それがとっても嬉しかったわ… ◆月★日 日記を書くのも久しぶりね…あれから色んなことがあったから… あれからアンリエッタ姫様に頼まれてワルドとアルビオンにウェールズ様に送った手紙を取りに行く任務を任せられたのよ(何故かギーシュも着いて来た)。 その途中で盗賊に襲われてピンチになった時偶然私と姫様の話を聞いてたらしいキュルケとタバサが助けてくれて。 思えばあの時から、私は彼女たちの事を「友達」と思っていた、友情は今も、そしてこれからもずっと続くと思う。 (もっともあの頃は素直になれなくて何度か喧嘩してけど、それも今となっては良い思い出ね) ラ・ロシェールでは捕まった筈のフーケが白い仮面の男と一緒に襲ってきてキュルケ達が囮になってくれたのよ。 目的地のアルビオンに向かう途中の船で海賊に襲われたと思ったらその海賊達が変装したウェールズ様達だったのよね。 それからアルビオンではワルドが急に結婚式を挙げようとして(正直性急ってレベルじゃないわよって思ったわ) 結婚を断ったら急に自分の目的とか明かしてウェールズ様と私を亡き者にしようとして危うく殺されるとこだったわ。 まあアイツが私たちを護ってくれたんだけどね。 その後私が虚無の使い手だって解ったり、レコン・キスタと戦ったり、タバサのお母様を助けたり、 本当に色々あったわ…でもいつだってアイツは私の傍に居て、どんな時も護ってくれた。 貴方は強くて、賢くて、優しくて、私の…私の大好きな使い魔よ… 本当にいつもありがとうね、ディアボロ…私の一番大切な人。 これからもずっと一緒に居てね… 「永遠の使い魔」完 永遠の使い魔―プロローグ― 『私は…私は…いったい何度死ぬのだろうか?次はどこから死が襲ってくるのだろうか?』 そう思っていた、完全に絶望していた。 あの少女に出会うまでは… 最初にあの少女に出会ったとき訳が解らなかった。 いきなり『使い魔になれ』だの、『平民なんて最悪だ』だの『メイジ』や『二つある月』だの訳が解らなかった。 唯一つ暫く時間が経って解った事は、『死が襲ってこない事』だけであった。 始めはいつもより時間が掛かって死ぬだけだと思っていたが何時間も経っても、一日が過ぎても結局死が訪れなかった。 この目の前に居る『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』という名の少女は私を無限の地獄から救ってくれたのだ。 私は嬉しかった、苦しみから解放されたことに。 そして私は決意した、あの地獄から救ってくれたこの主人を護ろうと。 彼女は私に雑用を命じた、初めての事に戸惑いながらも少しずつこなしていった。 彼女の恩に報いる為に、自分を救ってくれた主人に幸せに成ってもらうために… だがその決意も虚しく彼女を護る事が出来なかった。 殺されてしまったのだ…『土くれのフーケ』と名乗る怪盗をルイズが捕らえようと戦いを挑み、返り討ちに遭ったのだ… あっけなかった…キング・クリムゾンでも間に合わなかった… そして次の瞬間私は当たり前のように自分の首をキング・クリムゾンで切っていた。 『恩人を護れなかった自分は死がお似合いだ』そう考えたのだろうか?何にせよ、私は死を選んだ。 そして私は久しぶりにあの暗く、どこまでも深く、絶望的な死の闇に飲まれた。 だが私は目を覚ました、私はまたあの『地獄』が始まるのだろう、 そう思いながら次に目を覚ました瞬間信じられない光景を見たのだ!!!! ルイズが居るではないか!?死んだはずのルイズが生き返っているではないか!! あの光景は悪い夢だったのか?そう思って喜び彼女に話しかけたその時、彼女は信じられない言葉を口にした。 『あんた、私の事知ってるの?』 彼女は私の事など「知らなかった」それも当然だ。 戻っていたのだ、あの日に。 ルイズに絶望から救ってもらったあの日に… これは奇跡か?悪夢か?そう考えた時ふっとある事を思い出した、私を地獄に堕とした『奴』の言う「終わりのない終わり」の事を… 何故そんな事を考えたのかは解らない、だが一つだけ解った事がある。 私はまた『護ることが出来る』のだ、と… あれから何度も戻った、彼女が殺されるのみならず事故や病気でも、彼女が死ぬ度に私は自ら命を絶ち時を戻したのだ。 いったい何度死ぬのだろう?いったい何度目で彼女を最後まで護り通す事が出来るのだろう? だが何度死のうと私は護ってみせる、今度こそ最後まで護ってみせる。 そして私は今も自ら命を絶つ、今度こそ護り抜く為に。 彼女は私の主人なのだから、私は彼女の使い魔なのだから… 『我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ』 『…今度こそ…護ってみせる…』 プロローグ 「終わりのない使い魔」 完
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【名前】リゾット・ネエロ イメージはこちら 【出展】 <第5部 黄金の旋風> 【種族】 人間 【性別・年齢】 男性・28歳(イタリア・シシリー生まれ) 【外見】 長髪。黒いフードをかぶっている。黒目 【性格】 例え死ぬ間際になっても己の誇りを失わない気高さを持つ。 【口調】 「ひとりでは……死なねェッて……いったんだ」 かつて自分と親しい仲だった人物が交通事故で死亡。 飲酒運転だったドライバーを社会は数年の刑で許したがリゾットは許さなかった。 数年後ドライバーを殺害。その後闇の世界へと堕ちていった。 暗殺チームの冷遇に苛立っていたある日、ボスの秘密を調べていた部下が死亡。 チームの誇りをコケにされたと考えたリゾットは、ボスの秘密を探るため、 そして復讐のためにボスの娘「トリッシュ・ウナ」を狙う。その後サルディニア島でブチャラティチームを追跡していたが……。 彼の死闘はコミックス58巻で繰り広げられる。 【特異能力】 スタンド名:メタリカ リゾットの体内に巣食う寄生虫?のようなスタンド。沢山いる。 血液中の鉄分を操作して刃物や剃刀に作り変え、内部より相手を攻撃する。 またリゾット自身は鉄分を身にまとうことにより、景色と同化することも可能。 またメタリカは鉄分を利用した磁力も操ることができる。 これを使って、切断したリゾット自身の体をくっつけることができる。 この能力の恐ろしい点はターゲットの体内の鉄分を減らすことにある。 つまり早く鉄分を補給しないと、血液中の赤血球が酸素を運ばなくなり酸素欠乏症になってしまうのだ。 まさに暗殺に適した能力であるといえる。 ちなみにスタンド名の由来はアメリカのヘヴィメタルバンド「Metallica」から。 スタンドの「メタリカ」が発する鳴き声「ロォォド」も「Metallica」のアルバム「LORD」からきているらしい。 【備考】 本編では暗殺チームで最後の登場だった。 しかし前のチームメンバー・ギアッチョとの戦闘から半年近く存在を触れることがなかったため、 当時の週刊少年誌ジャンプでやっていたジョジョのお便りコーナーに 「リゾットはいつ出るの?作者に忘れられたんじゃ……」というお便りが来るハメに。 もちろんその後ちゃんと出番はあった。流石に今回は「ああ、そんなのあったね」とはならなかったようだ。